【プロキックボクサーから競輪へ】鈴木裕選手
2024.01.18

競輪選手には“様々な過去”を持つ選手たちがいます。
プロ野球選手、Jリーガー、オリンピックメダリストだった“過去”を持つスポーツエリートから、学校の先生、会社員、公務員、美容師などの“過去”を持ち活躍している選手もいます。
競輪選手を目指した理由(わけ)
そんな“様々な過去”を持つ競輪選手がどんな人生を歩み、どんなことをキッカケに競輪選手になる決意をしたのかをインタビューで紹介します。
自転車とは無縁だった“過去”を経験したからこそ分かる「競輪選手という職業」の魅力について語ってもらいます。
◆ 鈴木裕 Hiroshi Suzuki(千葉・92期)
埼玉県三郷市で生まれ、現在39歳の鈴木選手。
当時、父親がキックボクシングのジムの立ち上げに携わっていたこともあり、2歳からキックボクシングを始めました。
世界チャンピオンを目指し、17歳でプロデビュー。初戦・2戦目と順調に勝利を重ねて行きましたが、練習中に網膜剥離(もうまくはくり)が発症。引退を余儀なくされました。
目標を失い次の道が定まらない鈴木選手に競輪を勧めたのは、様子を見かねた父親。奮起し練習を始め、半年後には競輪学校(現:日本競輪選手養成所)の試験に合格。2007年に競輪選手としてプロデビューしました。
2011年には地元・松戸記念で優勝。昨年は全てのGⅠ開催に出場し、S級のトップ戦線で活躍し続けています。
世界チャンピオンを目指して
埼玉県三郷市で、3人兄弟の次男として生まれました。
父が『治政館』というキックボクシングのジムの立ち上げに携わっていたんです。
世界チャンピオンになった元プロキックボクサーの長江国政さんが引退するにあたり、一緒にジムを開くことになったそうです。
父は亡くなってしまいましたが、ジムは今でも続いています。
それで、僕は2歳の頃からキックボクシングを始めて、世界チャンピオンを目指すようになりました。
当時の憧れは、ジムの先輩だった武田幸三さん。練習中からオーラが怖すぎて喋りかけたりなんてできないし、ストイックさが他の選手とは全然違いました。
中学では部活には入らず、キックボクシング一本。
高校生になってからは、朝5時に起きて10km走ってから学校へ行き、放課後も走った後にジムへ行って夜9時頃まで練習する毎日を送っていました。
僕が所属していた団体は、17歳にならないとプロデビューできないんです。
17歳になってからプロになるための認定試験を受けて、高校3年の5月にプロデビュー。
緊張もなく、ミドルキックで1R・KOで勝つことができました。
相手のガードに関係なく、そのガードごと相手を倒すような、左のミドルキックが僕の得意な技だったんです。
1日何万回も蹴って、脛(すね)を疲労骨折したり、血だらけになっても、毎日蹴り続けていましたね。
網膜剝離で引退
2戦目は初戦から4カ月後に行われ、判定3-0で勝利しました。
「次戦はランカーに挑戦できる!」と意気込んでいたんですが…。2戦目が終わってからすぐ網膜剥離と診断されました。
父から「もう(キックボクシングを)続けさせられない」と言われ、引退することになってしまいました。
その時はショックが大きすぎて、どうしようもなかったです。
なんだかんだジムには足が向いてしまって、練習は続けていましたが、試合には出られないから全く意味がないし、世界チャンピオンになる目標も失いました。
いずれはジムを継ぐものだと思っていたので、敷かれたレールからもいきなり脱線して「これからどうしよう?」みたいな感じでしたね。
高校卒業後も2年くらいは、バイトをしながらなんとなく練習を続けていました。
そんな中途半端な僕の様子を見かねた父が、競輪を勧めてくれたんです。
父は大の競輪好きで、毎年大津びわこ競輪場(2011年廃止)まで見に行くくらいのファンで(笑)。親戚に競輪選手の練習を指導している人もいたので、始めやすい環境でもありました。
「せっかく体を鍛えてきたし1年だけ頑張ってみよう」と決めて、20歳で自転車に乗り始めました。
今では早めにケガをしたのが、“不幸中の幸い”だったかなって感じるんです。
重ねた試合も少なく若かった分、競輪の道へ軌道修正しやすかったんだと思います。
最初の練習ではサドルが硬く、座ると痛くて「え!?」ってびっくりしました。
「付いてこい」と言われるがまま60km乗って、最後は足がつってしまったり、散々でしたね(笑)。
練習を続けていると、良いタイムも出るようになってきて、面白くなって「この道で生きていこう」と決意しました。
競輪学校(現:日本競輪選手養成所)の試験には一発で合格できましたし、キックボクシングの試合は絶対に痛いですが、競輪は絶対に痛くないところがいいなって。
苦しさのタイプは違いますが、競輪のほうが耐えられると感じました。
キックボクシングで培った耐え忍ぶ精神面や根性は、かなり競輪でも生かされてると思います。
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