【デイリースポーツ・KEIRIN屋】覚悟を決めて挑戦を!北井佑季特集

2024.06.06

2024年6月6日 デイリースポーツ掲載記事

 

今回のケイリン屋は3日から始まった129、130期の選手候補生募集に合わせて異業種から競輪選手へ挑戦した選手に注目した。

Jリーガーから競輪選手へ転向した北井佑季(34)=神奈川・119期・S1=は圧倒的な脚力で昨年9月の向日町記念でGⅢ初制覇。ビッグレースでも絶大な存在感を放っている。

同じ足を使うスポーツでも全く違う分野を選んだ理由や、競輪選手の魅力を語ってもらった。

(聞き手=貞 友之)

 

北井佑季 一問一答

―サッカーを引退した後に競輪選手を目指した理由は。

「(競輪は)長くできる競技の一つでもありますし、他の競技から転向して第一線でできるスポーツってなかなかないと思うんです。他の競技から競輪へ転向している人がいるのも知っていました」

 

―サッカー選手としての引退は迷わなかった。

「明らかにサッカー選手の方が競輪選手より寿命が短いので、自分の中ではできても33、34歳までだなと。結局、29歳で引退しましたけど、26、27歳の時に(引退は)考えていました」

 

Jリーガー時代の北井佑季(右、本人提供)

 

―競輪について知っていたことは。

「小菅誠さん(神奈川・90期)の妹と幼なじみで、お兄さんが競輪選手というのは知っていました。競輪については自転車で走るってことくらいしか知りませんでした」

 

―他の選択肢は考えなかった。

「警察官ですね。競輪選手か警察官で迷っていた。警察官になるための勉強もしていました。でもやっぱり、より体を使う仕事がしたかった。できれば自分の体を動かして目標に向かうのが性格的に好きなので。それを長くできるのは競輪選手でした」

 

―実際に競輪選手になるために自転車に乗ったのはいつ。

「引退してすぐ乗りましたよ。養成所の試験が10月だったんですけど、4月から乗りました」

 

―実際に競輪用の自転車に乗ってみてどう思ったか。

「自転車じゃないですね。ママチャリとかマウンテンバイクは乗ったことがありましたけど、別物でしたね。最初は大丈夫なのかなと思ったんですけど、試験が近づくにつれて合格できるタイムが出るようになってきた。力を発揮できれば養成所に入れるかなと思いました」

 

―養成所に入ることになって家族の反応は。

「卒業して認定試験を受けないとレースには出られない。しっかり卒業してレースに出られるように頑張ってと応援してくれました」

 

―デビューを迎えた当時の自分の将来像は。

「GⅠを獲りたいと思っていたし、グランプリも出たいと思っていた。そこに行きたいと思ってやってきた。まだ目標は達成できてないけど、近づいてきているのかな」

 

―転向してみて良かったか。競輪選手の魅力は。

「やってみて良かったなと思います。体を動かす競技としてひとくくりにすれば、目標に向かって自分がやってきたことが結果や賞金に表れる割合が明らかに多い。成功するには努力が絶対に必要なんですけど、本当にキツい練習をしたり、頑張ってきた人が単純に勝つ。やってみて僕はそう思います」

 

―北井選手のようにセカンドキャリアを考えている人や、今も迷っている方もいると思う。

「簡単な競技ではない。すごく体を酷使するしキツい。踏ん切りが付くのは覚悟だと思う。これっていう風に決めて、僕は家族もいたから覚悟を決めてやってきた。自分なりの覚悟を持てるのが大事なのかなと思います」

 

―これから競輪選手を目指す人へエールを。

「武田(豊樹)さんはスピードスケートでも一流だったし、松谷(秀幸)さんは野球から転向している。いろんな競技から転向してGⅠを走っている。他競技から転向してもチャンスはある競技だと思います」

 

パワフルな走りでファンからの人気も高い

 

北井佑季 プロフィール

北井佑季(きたい・ゆうき)

1990年1月27日生まれ、34歳。横浜市出身。169センチ、78キロ。

2010年に当時JFLだった町田ゼルビアに加入。12年にJ2に昇格して13、14年に松本山雅、15~17年までカターレ富山、18年にSC相模原に所属。J2、J3でフォワードとしてプレーして19年に引退。

20年に日本競輪選手養成所119期生として入所して21年5月に静岡でデビュー。22年5月にS級へ昇級して23年9月の向日町でGⅢ初優勝。

通算獲得賞金は1億2540万9100円(5日現在)

 

異業種から競輪に転向した主な選手

武田豊樹(茨城)スピードスケート(ソルトレークシティ五輪代表)

吉沢純平(茨城)スケート・ショートトラック(バンクーバー五輪代表)

西谷岳文(京都)スケート・ショートトラック(長野五輪金メダル)

原大智(宮城)フリースタイルスキー・モーグル(平昌五輪銅メダル)

松谷秀幸(神奈川)プロ野球・ヤクルト投手

伊代野貴照(奈良)プロ野球・阪神投手

野口裕史(千葉)ハンマー投げ(2015年日本陸上選手権優勝)

稲垣裕之(京都)海上自衛隊

皿屋豊(三重)公務員(伊勢市役所)

日野未来(奈良)グラビアアイドル

長沢彩(福岡)美容師

 

家族が競輪選手、あるいは自転車競技を経験していたから競輪選手を目指すパターンが多い中、異なる競技からの転向組でも成功例が多い。

スピードスケートで五輪に出場した武田豊樹は2014年にグランプリ(岸和田)を制覇して競輪界の頂点に立ち、GⅠ7回、GⅡ8回の優勝を誇る。

武田と同様にウインタースポーツからの転向は多い。シーズンオフに自転車を使ったトレーニングをしていることも要因の一つだろう。

プロ野球や陸上競技からの転身例もある。運動能力はもちろん、過酷なトレーニングをしてきた選手は競輪の厳しいトレーニングも乗り越えて結果を残している。

スポーツ界だけでなく、公務員から転身した皿屋豊、グラビアアイドルからレーサーになった日野未来など経歴は多岐にわたる。

 

記者メモ

北井は今年8月に行われるGⅠ・オールスター(平塚)の中間発表でファン投票7位。器用なレースをするタイプではないが、真っすぐで愚直。ファンからもレーススタイルへの支持や信頼は厚い。

年齢的に若いデビューではなく、とんとん拍子での出世でもなかったが「努力は報われる」を体現するように師匠・高木隆弘(神奈川)の厳しい指導の下で地道に力を付けて競輪界で最高峰のGⅠレース(2月全日本選抜)で決勝3着。タイトルが手に届く地位まで成長した。

異業種からの転向組は経験の面ではハンディとなるが、元の競技に対して取り組んできた姿勢が競輪に生きている。

成功する確証はないが、異色のキャリアでもトップを目指せるチャンスがあり、北井が言うように選手寿命が長いのも魅力。

異業種からの成功例が増えれば、競輪界全体のレベルアップも望めるだろう。

(関西競輪担当・貞 友之)

 

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