【夕刊フジ】「いわき平競輪場から感謝を込めて…」GⅠ『日本選手権』を開催する、いわき平競輪場の木村丈二所長に聞く

2024.04.30

夕刊フジ 4月30日発行号掲載

 

競輪界最高峰のGⅠレース「日本選手権競輪」が今年は、いわき平競輪場(福島県いわき市)で4月30日から5月5日の日程で開催される。

施行者である、いわき市産業振興部公営競技事務所の木村丈二所長に今大会、そして復興支援にかける思いを聞いた。

 

いわき市産業振興部公営競技事務所・木村丈二所長

 

2011年3月11日に発生した「東北地方太平洋沖地震」は、いわき市にも甚大な被害をもたらした。

「全面改修して2009年にリニューアルオープンした、いわき平競輪場は無傷でした。他の公共施設は被害があったので、競輪場が全国各地からの支援物資の受け入れ拠点になったんです」バンク下に広がる500台収容の駐車場は物資で埋まり、一時期は自衛隊の基地にもなった。

 

「競輪場はみなさんの支援の気持ちが一番染みている場所なんですね。なので『今、いわき市は復興しています』という感謝の気持ちを発信するという使命を背負っている施設だと考えています。市民の皆さんも『競輪場に集まった物資で助けてもらった』と言ってくださいます」

 

支援物資拠点として使用された、バンク下の駐車場

 

歴史的に大地震を繰り返している日本。2016年には「熊本地震」によって熊本競輪場が被災。スタンドやバンクなどに壊滅的なダメージを受けた。

関係者の努力により今年の7月、8年ぶりに再開を果たすが、「実は熊本と福島はカスミソウの二大産地なんです。春夏が福島、秋冬は熊本で生産するため、市場には1年中、カスミソウが出回ります。その縁もあって、7月のオープンにはカスミソウを持って伺います。少しでも震災時の支援の気持ちをお返ししていきます。カスミソウの花言葉は『感謝』なんですよ」

 

〝お返しの気持ち〟は地元を拠点とする団体にも向けられている。それは2019年に活動拠点をいわき市に移した「日本パラサイクリング連盟」だ。

いわき平競輪はオフィシャルトップパートナーとして金銭面での支援はもちろん、練習場所としてバンクも解放している。

その効果もあってか2021年開催の東京パラリンピックでは、杉浦佳子がふたつの金メダルを獲得するなど、母国開催を盛り上げた。

 

いわき平競輪のロゴが入った、パラサイクル連盟のジャージー

 

そのつながりもあり、パラサイクル連盟が主体となったイベント「サイクルスマイルジャパンいわき」が月に1回、いわき平競輪場で開催されている。

これは障害者、健常者の垣根を越えて〝みんなが自転車で笑顔になること〟を目的に、パラサイクルのコーチや選手が講師となり、タンデムやハンドサイクル、トライシクルなどパラサイクリングの自転車、競輪選手が使っているブレーキのないトラックレーサーで実際にバンクを走行するというもの。

障害者はもちろん、自転車に乗りたての子どもや競技志向のサイクリストなど、多彩な人々が参加する大人気イベントだという。

 

サイクルスマイルジャパンプロジェクト

 

また、パラサイクル連盟が拠点を移した2019年には、いわき市、日本パラサイクル連盟、サッカーJリーグ「いわきFC」を運営するいわきスポーツクラブの3者が「スポーツを通じた共生のまちづくりに関する連携協定」を締結。

パラサイクル連盟が事務局を置く、いわきFCパークには『ノレル?(NORERU?)』という自転車文化の発信・交流拠点が設けられた。

 

以来、3者による活動が続けられており「いわきFCの選手がバンク走行に参加してくださることもあります。今後はいわきFC出身のJリーガーが競輪選手に転向する可能性もありそうです」と話す。

元Jリーガーでは2021年にデビューした北井佑季(神奈川)が大活躍しており、セカンドキャリアとしていわきFCの選手がレーサーとしてデビューする日もやってくるかもしれない。

 

いわき平競輪場でGⅠが開催されるのは、2022年の日本選手権以来となるが、東日本大震災の後、初めていわき平競輪場で開催されたGⅠは2017年のオールスター。

「歌手の八代亜紀さんが東北の被災地を回って被災者に歌を披露してくださったんです。それに感銘していた前の担当者が『いわき平でGⅠを開催するのでイベントに来てほしい』とオファーしたら『喜んで』と2017、18年のオールスター競輪開催時に来てくださったんです」

 

八代さんは17、18年と2年続けて来場し、「舟唄」「雨の慕情」などを熱唱。超大物歌手の競輪場での特別ステージに観客は大歓声を挙げ、震災からの復興を印象付けた。

実は今回の大会でも八代さんにオファー。その段階で既に体調を崩していたそうだが「回復していたら行きます」と快諾してくれたそうだ。しかし、残念ながら昨年12月、八代さんは帰らぬ人となってしまった。

 

東日本大震災という未曽有の災害を経験したいわき平競輪は、八代亜紀さんの思い、全国からの支援を胸に刻み、どこかで災害があると場内に募金箱を設置し、職員、選手会からも寄付を募り、集まったお金を被災地に寄付しているという。

「苦しかったときに全国から支援してもらった。いわき平競輪場のこの施設がある限り、お返しをし続けることが使命だと思っています」。復興の象徴として、そしてその支援への感謝を全国に届けるため、いわき平競輪ではこれからもレースを開催し続ける。

 

バンクの内側からも観戦できる いわき平競輪場

 

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