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<後編>ガールズケイリン初のママさんレーサー田口梓乃 堅実なレースで車券に貢献 【松本直のガールズケイリンちょっとイイ話】

特別企画 2023.12.20



“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。



前編はコチラ


後に田口梓乃(旧姓・三輪)の夫となる田口守との出会いは、デビュー1年目の冬のことだった。


ガールズケイリンに懐疑的だった田口守だが、決勝進出を外して悔しがる三輪梓乃の姿を見て、「競輪に対して真面目な子がいるんだな」と思い好意を寄せたそうだ。


田口守が親交のあった須藤稚明(102期・引退)を通じて三輪梓乃にコンタクトを取り、交際に発展。

忙しい競輪選手同士だが、時間を作り、仲を深めていき、デビュー3年目の2014年4月に結婚。

男子選手と女子選手の結婚はガールズケイリンができてから初だった。



「今思えば考え過ぎなのかもだけど、当時は競輪選手同士の結婚に対して後ろめたい気持ちがありました。付き合っていることを誰にも言ってなかったし。

でも結婚して良かったなと思ったことは気軽に競輪の相談ができることだった。

彼は自力選手。自分はマーク選手。自力選手の考え方はすごくためになった。

彼は自転車競技歴も長いので、自転車のことも頼りになりました」



田口梓乃の初優勝は愛の力が追い風となった。

デビュー4年目の2015年1月岸和田で初優勝を達成した。


加瀬加奈子奥井迪を突っ張って先行する展開。

田口は荒牧聖未のまくりに乗って一気差し。3連単30万2710円の好配当をたたき出した。


「岸和田の前に自転車のセッティングを相談していたら、『クランクを変えてみれば』とアドバイスをもらった。

彼のクランクに変えて岸和田に参加したら優勝できた。自転車のことは本当に頼りになりました」


初優勝後もコンスタントに決勝に乗り、選手として充実していたが、デビュー5年目の2016年1月玉野出走後に妊娠が分かり、レースを欠場することとなった。

その当時はまだ産休制度もなく、不安もあったが、家族のサポートもあり子供を産むことを決断した。


「結婚したときから子供はまだいいかなと思っていたけど、結婚式もしてそろそろかなと。

母も含めていろんな人が協力をしてくれると言ってくれたので。

制度も整っていなかったので復帰に関して不安もあったけど、子供を育てながらやってみようと思いました」


同年9月に第1子を出産。17年7月の松戸で復帰を果たした。

その後同年9月防府の出走後に第2子の妊娠がわかり、再度欠場。

18年4月に第2子を出産。19年7月佐世保で再復帰を果たした。



「前例もないことだったので不安もあったけど、やるしかないと。

1人目を産んだ後はすぐレースの流れに乗れたけど、2人目を産んだ後は全然感覚が戻らなかった。

アマチュア時代にやっていた100キロの乗り込みから開始して、渡口まりあが一緒に練習してくれるようになり、少しずつ戻っていった。

復帰戦の佐世保はダメダメだったけど、レースに参加することが一番感覚が戻る。

その時の自分に足りないことが明確にわかるので、走りながら戻していく方法をとっています」


2回目の復帰は大変だったと振り返ったが、復帰3場所目の19年8月函館では2、2、2着の準優勝。

その後もガールズケイリンと母親の二刀流をきっちりさばいた。

成績も出産前と同様にコンスタントに決勝に乗るところまで戻していった。



20年10月の松山では久しぶりの優勝も達成した。


「育児が大変とは思っていないんです。やりたいこと(競輪)をやらせてもらえている。

旦那や子どもたち、両親に祖父母。周りのサポートがあるおかげで今の自分がある。恵まれているんですよ。

松山の優勝も1着がなかなか取れず悩んでいるときに、旦那がセッティングを見てくれた。

5年ぶりにセッティングをごっそり変えていったら優勝することができた。

防府で練習を一緒にしてくれる仲間もいるし、周りのおかげで選手を続けることができています」


初めて子供を産んだときにはガールズケイリン初のママさんレーサー(選手になる前に出産していた場合を除く)だったが、その後は数多くのガールズケイリン選手たちが結婚、出産、復帰を経験している。

まだまだ足りない部分はあるが、女性の職業として認知されてきている。


「今のモチベーションは7歳と5歳になった娘達の存在。

育児もあるので1日中練習するってわけにはいかないけど、やれることをやって、選手としての結果を残したい。

今からガールズグランプリやGⅠレースの出場を目指すことは厳しいけど、目の前のレースを一生懸命走って、車券に貢献する。この気持ちは変わらない。

あとはもう1回優勝をしたいですね。娘たちの記憶にも残してあげたいですね。

1期生の自分だからできることもあると思う。後輩のガールズケイリンレーサーたちが結婚しても働きやすい環境を作ってあげたい」と語ってくれた。



ガールズケイリン1期生としていろんな経験をしてきた田口梓乃。

同級生には初代ガールズグランプリチャンピオンの小林莉子やガールズケイリンコレクション優勝実績のある山原さくら、遅咲きの野口諭実可、異色の経歴を持つ日野未来、ガールズグランプリ初出場を果たした吉川美穂といろんな選手がいる。


派手な活躍はないが、堅実なレースで車券に貢献するママさんレーサー・田口梓乃の挑戦はまだまだ続く。



田口梓乃 Shino Taguchi



生年月日:1992年8月18日

期別:102期

身長:156.0cm

登録地:山口県



松本直 Suguru Matsumoto



誕生日:1979年5月1日

所属:デイリースポーツ(競輪記者歴13年)


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