
“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。
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松本詩乃は、高校時代から世話になっていた大宮政志(21期・引退)に「選手を目指したい」と伝えると、後に師匠となる山崎充央(79期)を紹介され、選手を目指すことになった。
立川には「大宮道場」と言われる練習グループがある。
師匠の山崎充央を含めた男子選手との練習環境は抜群だった。
練習グループのメンバーと
大学4年生の秋に受けた日本競輪選手養成所122期の1次試験は競技経験を生かしてきっちり突破。
苦手だった学科試験の2次試験も全力で挑み、試験結果の発表を待った。
年が明けた2021年1月、日本競輪選手養成所の合格発表の日は落ち着かなかった。
なりたいと心から思った競輪選手への道。
合格発表の時間が近づくとソワソワが止まらず、気を紛らわすためにロード練習へと出かけた。
練習の一休みで携帯を見ると、そこには自転車競技を一緒にしていた仲間からのうれしい連絡であふれていたそうだ。
「自分で合否を確認するのが怖かったのですが、友だちからラインがいっぱい入っていた。
一番最初に連絡をくれたのは小原丈一郎(115期)だったかな。
同学年で同じ時期に自転車競技をしていたこともあり、連絡をくれました。
他にもいろんな人から連絡をもらって、うれしかった。
家族にもすぐ連絡をしてホッと一安心しました」
日本競輪選手養成所の122期は21人。
高校卒業の現役組も多かったが、松本と同じ大学卒業組も多く、苦労することはあまりなかったそうだ。
「122期は同学年も多かった。
同じ時期に自転車競技をしていた小泉夢菜に野寺楓、適性試験で合格した塩田日海。
毎日訓練も楽しくできました」
競走訓練では8勝、在所成績は6位で1年間の養成所生活を終えた。
122期の同期と。写真後ろ左から、畠山ひすい、塩田日海、戸田瑞姫、渡邉栞奈
卒業後は地元に戻り、立川競輪場で練習。
デビュー戦の競輪ルーキーシリーズは卒業記念レースから1カ月後の松戸だった。
成績は4、2、6着で決勝進出。
2場所目の松山は1走目で初勝利を挙げて1、3、3着。
3場所目の四日市では1、1着の連勝で勝ち上がりも決めた。
決勝は4着に敗れルーキーシリーズでの優勝は達成することができなかったが、順調な滑り出しを決めた。
「ルーキーシリーズは1年間養成所で過ごしてきた同期との対戦だったので、あまり不安はなかった。
デビュー戦の思い出は山口伊吹(116期)が松戸まで来てくれたこと。
レースが終わった開催後に花束を持ってきてくれたんです。うれしかった。
伊吹は1つ年が下だけど、高校時代から一緒に競技をやってきた仲間。
先に選手になっていて、大学時代も遊んだりしていたんです。
伊吹は選手、自分は大学生だったので、食事に行ったときも伊吹がサッと会計を済ませてくれていた。
松戸のときもサプライズで来てくれた。カッコいい子なんです」
競輪ルーキーシリーズを順調に走り終え、7月から始まる先輩たちのレースでも期待されたが、甘い世界ではなかったと振り返ってくれた。
「今思うとかわいいことで悩んでいたなと思うけど、当時は大変でした。
先輩たちとのレースは動きも複雑で頭の回転が追い付かなかった。
全く勝てないし、うまくいかないし、すごく苦しかった」
9月の函館では初めて決勝進出を外すと最終日には失格。
11月には富山、大宮と続けて決勝に乗れず。
苦しい1年目となってしまった。
デビュー2年目は経験を積んだこともあり、レースの中で存在感を少しずつ発揮してきた。
前半戦は4月平塚で決勝3着(優勝・佐藤水菜)、5月のいわき平では決勝2着(優勝・太田りゆ)、6月函館でも決勝2着(優勝・増田夕華)と結果もついてきた。
後半戦も11月松阪、12月佐世保で準優勝。
初優勝の期待も大きくなっている。
「いわき平の決勝2着はよく覚えています。
とにかく太田りゆさんが強くてかわいかった。憧れる存在です。
少しずつ戦える手応えをつかんできた部分はあるけど、トップクラスの選手と比べるとまだまだ。
ガールズケイリンにGⅠレースができて、レースをよく見ているけど、トップクラスの選手たちは何でもできる選手たちばかり。
自分は逃げて勝負が全くできていない。まくり、差し、マークしかないのはダメ。
今年は逃げて勝負できるようになりたい。
ダッシュを生かして一発で勝負を付けるのはできるけど、ペース配分を自分で組み立てて押し切れるようになりたい。
自分の幅を広げる1年にしたい」
2024年の飛躍に向けて、強化ポイントは整理できている。
師匠の山崎充央も期待を寄せている。
「松本は脚力がある。特にダッシュ力は抜群。
あとはメンタル。男子も女子も強い選手に共通していることは『自分が強いんだ』って思うメンタル。松本はその部分がまだ整っていない。
練習の脚力を見れば強いことは分かる。今年は自分に自信を持ってレースに向かってもらいたい。
東京には強いガールズレーサーが多くいるけど、松本もその中の一人になれると思っている。
これからもしっかり練習をやっていい成績を残してもらいたい」とエールを送った。
師匠の山崎充央
飛躍のための練習環境は抜群だ。
立川競輪場は師匠の山崎充央を中心とした大宮道場のメンバーだけでなく、ガールズケイリン選手が大勢練習にくる場所で練習パートナーには困らない。
保立沙織(118期)とは年齢こそ離れているが、気が合う様子で和気あいあいと楽しくやっている。
松本と保立沙織(写真右)
進路に迷っていた大学時代、ガールズグランプリを見て選手を目指した松本詩乃。
今度は自分自身がガールズグランプリ出場を目指して頑張ってもらいたい。
素質開花の2024年に注目だ。
松本詩乃 Shino Matsumoto
誕生日:1999年3月7日
身長:157.1cm
期別:122期
登録地:東京都
松本直 Suguru Matsumoto
誕生日:1979年5月1日
所属:デイリースポーツ(競輪記者歴13年)