
“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。

■前編は
コチラ
藤田まりあは日本競輪学校(現・日本競輪選手養成所)で、キツかった思い出のほうが多かったそうだ。
「競走訓練で2回落車したことがキツかったですね。あとは入学当初の体が重かった。116期の合格発表後、師匠から『競輪学校に入るまでは高校生活を楽しんだほうがいいよ』って言ってもらえた。部活オンリーの生活だったので、最後の3カ月は遊びましたね(笑)。
遊んで食べてって楽しくやっていたら一気に10キロも体重が増えました。競輪学校に行く前に久しぶりに競輪場に行ったら『誰?』って言われるくらい太ってしまった。競輪学校はマイナスからのスタートだったし、なかなか結果を残すことができなかったですね」
それでも高校時代に鍛えた脚力とテクニックで在校9位。卒業記念レースで決勝進出。順調に階段を一歩ずつのぼり始めた。

116期の同期と。写真左から、清水彩那、藤田、鈴木樹里
卒業後は大宮競輪場で3カ月みっちり練習をした。デビューに向けてやりたい練習は全てやった。自信を持ってデビュー戦を迎えたが、先輩の厚い壁を乗り越えることはできなかった。
「デビュー戦が地元の大宮に決まったし、モチベーションは上がりました。準備と練習はばっちりだったし、戦える手応えはあったんです。でも先輩は本当に強くてうまかった。競輪学校では教わることがないことばかりでビックリ。先輩たちとの技術の差がこんなにもあるのかと思った。

初日が7着、2日目が3着。一緒に参加した
山口伊吹ちゃんと同ポイント。決勝最後の1人を2人で争う形になった。2人ともデビュー戦で点数も0点だったので、ガラポン抽選。『こんなことあるの??』ってなったし、結果山口伊吹ちゃんに抽選で負けてしまい、一般戦回り。忘れられないデビュー戦になりました」

山口伊吹(写真左)と藤田
デビュー後は苦しいレースが続いたが、9月高知の最終日の一般戦で初白星。続く10月弥彦では初優勝。先着した相手には
児玉碧衣がいて、大万車券を演出した。
「高知の初勝利は自力を出そうと思って踏んで勝てた。弥彦の初優勝は本当にたまたま。展開が自分に向いただけ。児玉碧衣さんを力で倒したわけじゃないのに、周りからすごいねと言われて、違うんだけどなって思っていました。
ミッドナイトでお客さんの声はなかったんだけど、優勝はうれしかった。実感が湧いたのは賞金をもらったとき。『夢があるな』って思いました」

2年目は1勝、3年目は7勝と思い通りの成績を残すことはできなかったが、着実に力を付けていった。
「デビューしたころはどうやって走っていいかわからない時期もあった。2年目の最初の豊橋でぎっくり腰になって力が入らないこともあり、戦法をマークにして戦っていた。腰の具合が安定してからは成績も安定してきた。師匠からも『追走がうまいし向いている』と言われていたし、ほぼほぼマークで戦っていた」

藤田と鈴木樹里(写真右)
3年目の2022年はマークだけでなく、追走からの差し勝負もできるようになり、成績が上昇。1着26回、優勝3回と好成績を残した。
中でもインパクトが強かったのは3月平塚での優勝だった。
前年12月にガールズグランプリを優勝した高木真備をマークして、ゴール前で差し切って優勝したのだ。
「この優勝も自分でもびっくり。このときの平塚は風がものすごく強かった。私が差せたってことは真備さんが風を受けて脚を使っていたんだと思います。優勝はうれしかった。周りの人から『グランプリレーサーを倒した』って言われたけど、自分では運がよかっただけって感じでした」

4年目の2023年は前年に引き続き結果を残した。
1着26回、優勝3回は前年と一緒だが、6月にはGⅠ・パールカップ(岸和田)への出場も果たした。
今年も前年以上の成績が期待されている。
「昨年のGⅠ・パールカップに出場していろいろ感じるところがありました。マーク戦では限界があるなと思ったし、GⅠに出場したことで自分よりマーク技術がある選手もいっぱいいたし、その選手たちは普通開催ではタテ脚を出していた。自分がマークだけでやってもここより上には行けないと思ったし、自力を出せるときには出していきたいと思いました」
練習環境の変化も自力を出すことへの追い風になっている。
「兄が山信田学さんのグループで練習していた。バンク練習ができないときに、山信田さんの練習グループに混ぜてもらった。初めての練習は街道練習だったんですけど、死ぬほど苦しかった。なんじゃこりゃと思ったけど、この練習をやっていけば絶対に強くなれると思った。山信田さんのグループで練習をさせてもらうようになってから自力を出せるようになったような気がします」

山信田学と藤田
6月には戦法チェンジのきっかけとなったGⅠ・パールカップへの参加も控えている。
GⅠレースへは高いモチベーションで臨めそうだ。
「今年は成績に波があった。4月の平塚は腰痛で途中欠場もあったけど、今は大丈夫。4月大垣でレーサーシューズのサンの位置を変えたら感じが良くなった。もっと早く変えておけばよかったけど(笑)。いきなりGⅠ優勝は現実的じゃないし、まずは決勝に乗れるように頑張りたい」

埼玉の選手たちと
選手を目指したときから一歩ずつゆっくりと前へ進んできただけに、ビッグレースに関しても堅実に自分の立ち位置を見ている。
加瀬加奈子のスピードに魅了されてガールズケイリンの道を目指した藤田まりあ。
選手生活はまだまだ6年目。伸びしろはたっぷりある。
「競輪選手になれてよかった。競輪選手の仕事はめちゃくちゃいいですよ。最初は苦労したけど、元々強かったわけじゃないし、ちょっとずつやっていけば目に見えて成績がよくなるし面白い。努力次第で成績を残せることも楽しい。あとは賞金も魅力だし、全国いろんなところへ行ける。
選手としての目標はずっと変わらない。大宮競輪場で優勝すること。自転車を始めたときからお世話になっている場所。何度もレースは参加しているけど、なかなか優勝まで届かない。埼玉はガールズケイリン選手も多いので毎回呼ばれるわけではないし、呼んでもらえたときには優勝をしたい」と力強く宣言した。

埼玉のガールズ選手たちと
児玉碧衣、高木真備を倒したことは運がよかっただけと話すが、運も実力のうち。めきめきとベースの脚力はアップしている。
マークから差し、逃げにまくりと多彩な戦法を手に入れ始めた藤田まりあ。
今年は挑戦者としてビッグレースでのジャイアントキリングを期待したい。
藤田まりあ Maria Fujita

誕生日:2000年3月21日
身長:156.0cm
期別:116期
登録地:埼玉
松本直 Suguru Matsumoto


誕生日:1979年5月1日
所属:デイリースポーツ(競輪記者歴13年)