
“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。

■前編は
コチラ
安東莉奈が過ごした1年間の浪人時代は練習中心の生活。安東と同じく120期の試験で落ちてしまった
羽田野愛花と支え合いながら練習に打ち込んだ。
「愛花ちゃんと一緒だから乗り越えられた。一緒に練習もしたし、練習が終わったあとは遊びにも行きました。自分1人だったら、浪人生活が続かなかったかもしれない。別府競輪場はアマチュアの練習環境が良かった。山登りの練習や、開催以外の時間はバンクを使えることが多かったので、本当に練習をよくしました。このころやっと自転車が楽しいって思えるようになりました」

別府競輪場のガールズケイリン選手と。写真左から羽田野愛花、安東、是永ゆうき
練習の成果は着実に出た。1年前よりタイムは良くなり、自信を持って122期の試験に臨めるまで成長した。同じ失敗を繰り返さないため、2次試験対策で学習塾にも通ったそうだ。
「タイムが良くなっていったので1次試験はまあまあ自信がありました。でも勉強は小さいころから嫌い。2次試験で落ちたくないし、塾に通ったんです。そうしたら塾の先生に『頭の中が小学3年生で止まっています』って言われました。このままじゃやばいと思って頑張ってSPI対策をして、なんとか122期の試験に合格することができました」
またこの浪人時代には走路補助員のバイトもしていたそうだ。
「女子の走路補助員って少ないと思うんです。自分も経験がないし、どうなるかと思ったら、最初のレースで目の前で落車があった。大変だったけど、いろんな経験ができましたね」
1年遠回りにはなったが122期として日本競輪選手養成所に入所。思っていた生活とは少し違っていたようだ。
「練習はアマチュアのときのほうがキツかったかも。アマチュアのときは男子の中でやっていたので。122期の女子はみんなタメ語で話したりしていて一緒にいて楽しかったし、キツいなって思うことはあまりなかったです。
先にデビューした同級生のことは気になりました。練習終わりに猛ダッシュでテレビを見に行き、同級生のレースを見ていました。応援の気持ちもあるけど、どんなレースをするのか興味がありました」

在所成績は8位。満足のいく結果で養成所生活を終えることはできなかった。
「第2回の記録会までは調子が良かったのに、競走訓練が始まってから前向きだった気持ちが一気に落ちてしまった。走り方が分からなくなってしまった。先行もできない、追走しても前を抜けない。みんなの前で先生から激励されたこともありました。自分でも分かっていることを先生から指摘されて泣いたこともありました。どう走っていいか分からないまま不安を抱えて卒業することになりました」
デビューは2022年4月末の松戸。予選2走を6、3着でまとめると決勝進出。
決勝戦の特別紹介で「期待に応えて」と言うつもりが「こたいにきたえて」とかわいい言い間違いをして注目を集めた。
続く大宮では決勝進出を逃したが、3場所目の松山ではきっちり決勝進出。
「戦えるルーキー」として競輪ファンにアピールをした。

本格デビューは7月弥彦。初日は前受けから突っ張り先行を披露。本格デビュー後2場所目の玉野では最終日の一般戦で初勝利もゲットした。
「弥彦はメンバーがすごかったですね。初日は前受けから突っ張って先行。大差で7着かと思ったけど脚の感じも悪くなかったし粘れた。レース後には
加瀬(加奈子)さんに褒めてもらえました。
玉野最終日の初勝利は展開ですね。運が良かった。前で藤原春陽が仕掛けてくれて、春陽を差して1着。自分で動いたわけではなかったけど勝てたことはうれしかったですね。でもレース後に、自分で自力を出して勝ちたいなって思いました」
デビュー年はがむしゃらに突っ走った。決勝に乗れない開催もあったが、力を出し切るレースを心がけて戦った。
2年目は成績上昇。決勝に乗る回数も増えていったが、安東自身の手応えはあまりなかったそうだ。
「成績は良かったけど悩んでいました。練習環境ですね。ただこなしているだけの練習になっていたような気がします」

同期の渡邉栞奈と安東
現状打破へ2024年は自分から変化を求めた。きっかけは高校の後輩・是永ゆうきの存在だ。
「春に高校の後輩の是永ゆうきちゃんが養成所から帰ってくるし、先輩としてこのままじゃダメだと思っていた。練習環境を変えて、成績を良くしたいと思っているときに、3月の別府で加瀬さんと一緒の開催になったんです。開催中毎日2人で朝サウナをして、いろいろ相談に乗ってもらいました。
その前から坂口楓華さんが市田佳寿浩さんのところへ練習に行っていることは知っていたんです。加瀬さんに相談したら、福井の男子選手とつないでくれたんです。その後、市田さんに電話をして練習を見てもらうことになりました」
4月から単身で福井にアパートを借りて、市田佳寿浩の指導を受け始めた。
「市田さんの練習はいままでと全然違いました。練習を始めたころは毎日筋肉痛。でも練習が楽しかった。レースに行くことも楽しくなっていったんです」
柳原真緒、坂口楓華をトップレーサーへ育てた市田佳寿浩の指導は安東莉奈にも効果てきめんだった。5月の京王閣はオール2着で準優勝。7月の高知は3、4着で勝ち上がると、決勝は最終ホーム7番手に置かれる苦しい展開だったが、最終1角からロングスパートを敢行。豪快にまくりを決めると初優勝を達成した。
「市田さんの所で練習をするようになって、優勝ができたと思います。最初は『決勝にコンスタントに乗れるように』と話していましたけど、優勝ができた。高知は考えていた展開がはまった。ペースが落ちると思ったので、一気に自力を出せば戦えると思っていた。
この高知の前に同期の河内桜雪と話をしていたんです。6月の岐阜で小林真矢香ちゃんが初優勝して『そろそろうちら優勝しないとやばくない』って話をしていたんです。日頃の行いから改めようって話していました。自分は優勝できたし、桜雪ちゃんにも優勝してほしいですね。同期の活躍は刺激になるので」
高知の初優勝後は4場所走って決勝には乗れているが、安東本人は納得していない。
「(藤原)春陽ちゃんから『優勝したあとの開催って走り方が難しいよ』と話は聞いていたんですが、その通りでした。結果を出さなきゃいけない焦りなのか、走りにくい。勝たなきゃいけないと自分にプレッシャーがかかっているのかも。でも今はレースに行くことが楽しいし、頑張っていきたい」

122期の同期と
今年後半の目標は2つある。
「年内にもう1回優勝したいですね。あとは地元での1着が欲しい。別府競輪場は特別な場所。中学生のとき自転車競技部の練習を見て、カッコいいと思った場所。アマチュアのときも一生懸命練習をしてきた。応援してくれる人も大勢いる。地元ではまだ1着が取れていないので、勝ちたいですね」
10月11日~14日の4日制開催の地元戦が入った。
悲願の地元初白星&地元初優勝へしっかり練習を積み重ねてWゲットへ気合を入れて臨んでいく。
キラキラ輝く安東莉奈の挑戦はまだまだ始まったばかりだ。
安東莉奈 Rina Ando

誕生日:2001年4月20日
身長:153.0cm
期別:122期
登録地:大分県
松本直 Suguru Matsumoto


誕生日:1979年5月1日
所属:デイリースポーツ(競輪記者歴13年)