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<後編>産休を経て今年7月に復帰した中嶋里美 レース勘を取り戻しGⅠ出場へ! 【松本直のガールズケイリンちょっとイイ話】

特別企画 2024.12.20



“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。



■前編はコチラ



中嶋里美のプロデビュー戦は2016年7月。地元豊橋で迎えた。

3日間、積極的にレースを動かした。着順は予選1がカマシ先行で2着、予選2もカマシ先行で3着、決勝は突っ張り先行で4着。デビュー戦で初白星はゲットできなかったが存在感をアピールした。


「デビュー戦が地元の豊橋でうれしかった。細かいレースのことは覚えていないけど、自分から積極的に動いていこうと思ってレースに臨んだことは覚えている。

1番最初にガールズケイリンを検索したとき、目がいったのは加瀬(加奈子)さんの先行だった。ガールズサマーキャンプ(現・トラックサイクリングキャンプ)で一緒だった奥井(迪)さんがデビューしてから先行で活躍する姿を見て衝撃と勇気をもらって、自分もガールズケイリンに挑戦しようと思った。加瀬さんや奥井さんのようなレースをして勝ちたいと思って臨みました」


8月の弥彦最終日にまくりで初白星をゲットした。

「デビュー戦は逃げて良い成績を残せたけど、それ以降は先輩たちが強くて歯が立たなかった。もっと練習しないとダメだなって思いました。動いて戦わないと結果がついてこないってことを1年目で学んだような気がします。器用なタイプではないし、レースの中でアクションを起こして自力を出したほうがいいってことに早く気がつけてよかったなと思いました」



2年目以降も前々に仕掛けるレースを多用すると、成績は安定。決勝の常連となり、初優勝は時間の問題と思われたが、あと一歩のレースが続いた。

「同期の活躍は刺激になっていた。自分も早く優勝するぞって気持ちになっていました」


初優勝は3年目の2018年12月。西武園での開催だった。

「覚えていますよ。この初優勝は。競輪祭(ガールズグランプリトライアルレース)出場組のいない開催だったので、優勝を狙って入りました(笑)。決勝は同期の(土屋)珠里ちゃんとのゴール前勝負。狙っていった開催で優勝できてうれしかった」


写真左から同期の土屋珠里、林真奈美、中嶋


優勝で流れを引き寄せると翌年以降は大物キラーとして優勝を積み重ねていった。

2019年は1月小倉で石井貴子(千葉)を差し、7月富山ではカマシ先行で石井寛子を振り切る。2020年はキャリアハイの3回優勝。3月豊橋では高木真備(引退)、佐藤水菜を倒して地元優勝と着実にステップアップを続けた。


「展開が向いただけで、たまたまですよ(笑)。でも良い練習はできていました。豊橋はT―GUPがあるおかげでガールズケイリン選手が大勢いる。ガールズケイリン選手だけでもがくこともできるし、男子の選手も協力してくれる。良い環境で練習できていたおかげで、良い成績を残すことができました」


写真上段左から中嶋、佐々木恵理田中千尋

下段左から鈴木樹里高橋智香黒沢夢姫


ガールズケイリンで活躍していく中、転機は2022年の秋に訪れた。

妊娠していることが分かり、2022年9月富山の開催後、産休に入った。

「お腹に赤ちゃんがいることが分かってからも競輪選手を辞めようとは思わなかったですね。産休中は同期で同じ中部地区の(宮地)寧々ちゃんにいろいろ話を聞きました。先輩ママさんレーサーがいたので、分からないことは聞いて出産、復帰に向けて備えていました。妊娠中でもできるトレーニングをしたり、トレーナーさんを教えてくれたりと同期に感謝ですね」


2023年5月末に第1子を出産。夏まではゆっくり過ごしたが、9月に入り復帰へ向けて軽いロード練習に出かけると熱を出してしまった。少し休憩をして涼しくなった11月にもう一度練習を再開するもまたもや熱が出てしまい、年内はおとなしくすることを決めた。

「9月に練習をしたときはまだ母乳をあげていたし、無理だったんでしょうね。11月のときも熱が出てしまったし、年明けまでゆっくりしようと思いました」


2024年に入り復帰に向けて本格的な練習を再開すると最初は違和感しかなかったそうだ。

「年が明けて練習を始めたら、ダッシュの仕方が分からなくなっていた(笑)。アマチュアに戻った感じでしたね。これは大変だなと思ったけど、少しずつ練習をしていったら、感覚が戻っていきました。

結婚を機に豊橋から名古屋へ移籍した。男子選手やガールズ選手に練習に付き合ってもらったり協力をしてもらい、周りのみんなのおかげで5月の走行能力試験も無事クリアすることができました」


写真左から中嶋、齊藤由紀、宮地寧々、佐々木恵理


7月の岐阜から復帰すると、6着、6着、2着。外から見ていると流れに乗れているように見えたが、本人の感覚は全く違ったそうだ。

「レースは練習と違うなと思いました。レースの速度に圧倒されました。スピードが練習と違って、ちぎれちゃうと思いました。レース以外の部分はみんな休む前と変わらない感じで接してくれたのでうれしかったです。初めて会う後輩たちともいろんなお話ができたし、復帰してよかったなと思えました」


8月の富山最終日には産休から復帰後の初白星をゲット。同月別府では決勝進出と以前の中嶋里美の成績に少しずつ近づいてきた。


「8月の富山は予選で走っているときに、感覚が戻ってきた感触がありました。でもまだまだだし、結果がついてきているのは、たまたまですよ。以前と違って自力を出すレースはできていない。うまく良い位置を取って、走れているだけ。番組や車番に恵まれている部分も大きいです」


今期は復帰1期目。感覚を取り戻すアイドリング期間でもある。チャンスがあれば動いて、レース勘を必死に取り戻している。

少しずつ動けるようになっていけば、競走得点はどんどん上がっていくはずだ。


「今の目標は新設されたGⅠレースに滑り込みでもいいから出場すること。自分が産休で休んでいるあいだにガールズケイリンはGⅠレースができた。休む前に競輪祭(ガールズグランプリトライアルレース)やガールズケイリンフェスティバルに参加したことはあるけど、全く歯が立たなかった。何年かかるか分からないけど、GⅠレースを走ることが目標です」


宮地寧々と中嶋


かわいい子どもの存在も中嶋里美が頑張る原動力になっている。

「両親が協力してくれているので、レースに参加できている。子どもにはさみしい思いもさせてしまっていると思うし、レースで頑張りたい。今はまだ自分が走っている姿を見ても分からないと思うし、大きくなって自分が走っているところを見せたい。そのくらいのタイミングでGⅠレースに復帰できればいいですね」


自分の意思でやりたいと思ったガールズケイリン。産休を経てガールズケイリンへの思いはさらに強くなっている。

自分自身のため、そしてかわいい子どものためにも全力で戦う中嶋里美の挑戦は始まったばかりだ。



中嶋里美 Satomi Nakajima



誕生日:1990年11月29日

身長:165.3cm

期別:110期

登録地:愛知県


松本直 Suguru Matsumoto



誕生日:1979年5月1日

所属:デイリースポーツ(競輪記者歴13年)


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