
“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。

■前編は
コチラ
佐々木綾のプロデビューは2019年7月佐世保。7着、7着、6着。ほろ苦いデビュー戦となった。第1走は前受けから突っぱり先行と元気よく駆けていったが、真後ろの野口のぞみ(110期・引退)に番手まくりとプロの洗礼を浴びた。
2開催目の福井は5着、7着、2着。最終日の一般戦では3番手から自力でまくり発動。
佐々木恵理にまくられたが2着と初の車券絡みを果たした。
3開催目の青森では6着、6着、1着。最終日の一般戦では先行した田仲敦子(104期・引退)の番手から最終2角でまくり発進。ゴールまでしっかり踏み切って、デビュー初勝利を手にした。
11月の防府最終日にゴール後落車をしてしまったが、デビュー1年目は活発に動く佐々木綾というイメージを競輪ファンにアピールした。

1年目を振り返り、「競輪学校(現・日本競輪選手養成所)を卒業してからは、師匠との練習をみっちりやっていた。でもデビュー戦では思うように走れず、全然ダメだった。レース後は涙が出てきました。どうしていいか分からないって感じでしたね。
2場所目の予選1で5着が取れた。レベルが低い話かもしれないけどうれしかった。3場所目の最終日に1着も取れた。競輪学校で1回も勝つことができなかったし、まさかこんなに早く1着が取れるとは思わなかった」
11月の防府最終日にゴール前落車。選手生活1年目は落車でシーズンを終えた。
「ケガがひどいわけではなかったけど、47点も取れていたので、体のケアをして2年目に備えようと思いました。休んでいる時期はいろいろ考えましたね。特に同期(116期)のことは意識していた。同期が結果を出していたし、どんな練習をしているか気になりました。
同期の多くがバンクで練習をしていることが分かって、自分もバンク練習をしないといけないと思いました。自分は選手を目指した時から、師匠と師匠のグループの少人数でしか練習をしてこなかった。2年目は現状を変えようと思って、実家を出ていわき平競輪場のそばに住んでバンク練習を取り入れることにしました」

116期の同期と
すぐに結果が出ることはなかったが、いわき平での新しい練習は佐々木にとって刺激の入る環境だった。
2年目は7月の宇都宮で初めて決勝進出を決めると、そこから4開催連続で決勝進出。
12月の川崎から2月まで6開催連続で決勝進出。その後もコンスタントに決勝に乗ることも増えていった。
「今考えると選手生活1年目は生きてきた中で初めて味わった挫折だったのかもしれないです。何をやっても器用にできたし、誰かの下になることは少なかった。このままでは良くないと思って環境を変えた。いわき平の皆さんが受け入れてくれて、いい練習ができた。2~3年目は決勝に乗れることも増えていったし、順調でした」
4年目は成績も順調に推移したが、さらに上を目指す強いモチベーションがわいてこなかった。
「満足のレベルが低いんですけど、成績が良くなると練習をしなくなることがあった。練習をしていても質が低かった。当然周りの選手とは差ができますよね。同期の活躍はうらやましかった。自分のメンタルは落ちていく一方なのに、同期はキラキラしていた。競輪選手を辞めたいって思う機会が多くなっていきました」

こんなはずじゃないと思っても、自分で自分を諦めることは一度も無かった。
環境をもう一度変えることができたらやり直せる。行動を起こさず、後悔することだけは嫌だった。
元々東京・世田谷のジムに通っていたこともあり、東京へ移籍する人生のラストチャンスにかけてみることにした。
2024年7月、福島支部から東京支部へ移籍。新しい環境でガールズケイリン選手・佐々木綾の第2章をスタートさせた。
「頑張りたい一心で移籍を決意した。京王閣は
寛子さん、
貴子さんの石井姉妹や、
中村由香里さんがいる。そばで練習をしている姿を見ていると、追い付きたいと思いました。京王閣で練習をさせてもらうようになり、師匠の斑目(秀雄)さんに教えてもらったこと、いわき平の練習で教えてもらったことがいろいろつながってきたんです。移籍していい結果を出すことで今までお世話になった人たちにいい報告ができるように頑張っていきたいんです」

東京に来て新しくできたコミュニティが最近の佐々木綾の強い原動力になっている。
「東京に来て生活が変わりました。福島にいる時は競輪選手という仕事に誇りが持てず、自己肯定感が低かった。でも東京に来たら、家の大家さんがすごくいい人で、人と人とのつながりをいろいろ作ってくれた。茶道をしたり、歌舞伎を見に行ったりとすごく毎日が充実している。
新しくできたコミュニティで競輪選手をやっていることを話すと『すごい!見に行ってみたい』って言ってもらえる。自分のやっている仕事を見てもらえる機会は普通の人には無いことだと思う。今は練習にレースにいいモチベーションで臨めている。東京に移籍してすぐに優勝できるほど甘くはないと思うけど、前向きに一戦一戦戦っていきたい」
周りの人と違う仕事がしたいという好奇心で挑んだガールズケイリン選手の道。未経験からスタートして、練習もレースも分からずもがき苦しんだ時期はあったが、時間をかけて、環境を変化させて正解に近づいている。
今年の目標は初優勝と52点キープ。東京の環境にも慣れて少しずつ成績を上げている佐々木の2025年に注目だ。
佐々木綾 Aya Sasaki

誕生日:1999年6月27日
身長:171.5cm
期別:116期
登録地:東京都
松本直 Suguru Matsumoto


誕生日:1979年5月1日
所属:デイリースポーツ(競輪記者歴13年)