

まだまだ厳しい校則があった時代。35歳での全寮制の生活。まったく触れたことのない自転車漬けの毎日。10歳以上年の離れた同期たちとの集団生活。大変なことが多かったと振り返る。

自転車の練習もまったくついていけなかった。記録会や競走訓練はいつも下位。ランクを決めるヘルメットキャップの色は青。(金―白―黒―赤―青の順)。
競走訓練でちぎれていたので、心配して師匠の大前(寛則)さんが岡山から修善寺まで見に来てくれたこともありました。このままじゃ卒業できないって本気で思いましたよ。
そんな状況だったし、勉強だけは一生懸命やりました。おかげさまで学業優秀賞をもらえました。あとは自転車で速く走ることはできなかったけど、自転車の整備は大好きでした。それは今でも変わらないですね」

2013年5月京王閣でデビュー。5着、5着、7着と車券に貢献することはできなかったが、まずはプロの競輪選手としてスタート。
「競輪学校を卒業して地元に戻ってからもバタバタでした。競輪選手としてのスタートと、新婚生活も同時にスタートで大変でしたね。伊東温泉での初勝利はうれしかった。実況の方が『伊東で猪頭が初勝利!』って言ってくれたことがすごく記憶に残っています」

しかし同年7月の平塚で落車、肩鎖関節を脱臼する大けがを負い、3カ月の戦線離脱を経験した。
「平塚は選手になって初めての落車。肩鎖関節の脱臼で患部にワイヤーを入れる手術をしたけど、痛かったですね。復帰まで時間もかかってしまったし大変でした。でも、けがに関してはスノーボード時代も多かったですね。ドクターヘリで運ばれたこともありましたから」
「この頃は谷尾佳昭さんが朝練習でバイクを使って引っ張ってくれていました。いい練習ができていたので、結果を出すことができました」

同期の石井寛子と
「競輪選手も続けていきたいけど、ずっと子どもが欲しかったんです。40歳になる前にって思っていたので、体外受精をすることにしました。自然に妊娠となるとタイミングもあるし難しい部分もある。それならば体外受精のほうが確実かなと思いました。
ちょうど(田口)梓乃ちゃんがガールズケイリンで初めて妊娠、出産のタイミングだったこともあり、自分もここでやるしかないって感じでした」
自分は子どもを産んでもできる限りアスリートでいたいと思っていたので、そのまま引退することは考えていませんでした。だからこそ2人続けて産んで、計画的に復帰しようと思っていました。3カ月から預かってくれる保育所を探して、子どもたちを預けて復帰に向けて練習を再開した。
自分たちママさんレーサーが増えていけば、ガールズケイリン選手を目指したいと思う女子も増えてくれると思う。結婚、出産を、選手を続けたい気持ちで諦めてほしくないんです。ママさんレーサーが増えることで選択肢も多くなると思うので」

同じくママさんレーサーの加瀬加奈子と
「2020年の夏に東京でオリンピック開催が決まっていた。結局コロナで2021年の開催になってしまったけど、自分としてはオリンピックに出場するアスリートと同じ気持ちになっていたので復帰に向けての練習を頑張れた。
産休から復帰する時は1000メートルとハロンのタイム測定がありました。走行能力試験を突破できないと、レースに復帰できないですからね。タイム測定の日は雨と風が強くてコンディションが悪かったけど、なんとかクリアすることができて、レースに復帰することができました」
「大前さんも2019年4月に落車。頭蓋骨の骨折やくも膜下出血で入院生活が続いていた。それでも絶対に諦めないで現役復帰を目指していた。自分も産休から復帰を目指している時期だったし、自分も諦めないで頑張ろうと思いました」

筒井敦史、猪頭、師匠の大前寛則
「ここ数年はいろいろ考えて練習に取り組んでいます。若い時と同じ練習をしても体がついていかないし、成績も上がっていかない。もどかしいことも多いけど、今の自分に合っている練習を模索しながら1日1日ベストを尽くしています」
「産休から復帰した時は子どもたちが小学校に入学するまでは現役でと思っていましたが、今年の春、下の子が小学校へ入学した。今度は2人の子どもたちが小学校を卒業するまで選手を続けたいですね。
子どもたちは最初の頃、自分が仕事に行く時に泣いていたりしたけど、最近は私の仕事が分かってきて「〇番車だったね」とか言ってくれます。
私が小倉で1着を取った時、旦那が動画を撮ってくれたんですけど、子どもたちがはしゃいで側転をして喜んでくれたんです。そういう動画を見るともっと頑張ろう。1日でも長く選手を続けたいって思います。
宿舎で若い子と一緒の部屋になっていろいろ話をしていると、『猪頭さん、うちのお母さんと同じ年ですよ』って話になることもあるんですよ。今一緒に練習をさせてもらっている筒井敦史さんは同学年なんですけど、55歳まで選手を続けようって話をしているんです。頑張らないとですね」

126期の伊藤優里と
猪頭香緒里だからこそ分かるガールズケイリンのいい所は金銭面だと教えてくれた。
「スノーボード時代はお金が大変でした。道具代、遠征費など、とにかくお金がかかった。ガールズケイリンは働きながら賞金がもらえる。全てにおいて自分の成績次第になるけどやりがいのある仕事だと思います。
結婚、妊娠、出産に対してもガールズケイリン初期の頃と比べるといろいろ改善されている。やりがいのある仕事だと思うし、ガールズケイリンを目指す人が少しでも増えてくれるといいですね」
ママさんレーサー猪頭香緒里は1日でも長くガールズケイリン生活続けていく。子どもたちの笑顔を見るために。

身長:165.0cm
期別:104期
登録地:岡山県


誕生日:1979年5月1日
所属:デイリースポーツ(競輪記者歴13年)