NEWS ニュース

<後編>GⅠで初の決勝進出!トップクラスの証し・通算300勝が目前の細田愛未 【松本直のガールズケイリンちょっとイイ話】

特別企画 2025.05.30



“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。



■前編はコチラ



細田愛未は日本競輪学校(現・日本競輪選手養成所)卒業後、地元の埼玉に戻り、デビューに向けての練習が始まった。この頃は師匠の太田真一と練習をすることが多かった。



「実は競輪学校の受験をする時、神奈川から受けようと思っていたんです。お父さんの自転車仲間が神奈川に多くて、その人たちから『神奈川で受ければいいんじゃない』って言われていて。その頃の自分は何も知らなかった(笑)。そんなタイミングで当時埼玉支部の支部長をしていた太田(真一)さんから電話があって『神奈川で試験を受けるのは違うぞ。川越工業高校の生徒で埼玉県に住んでいるならちゃんと埼玉から試験を受けなさい』って言われて。それで太田さんに師匠になってもらいました。

デビュー前の練習は太田さんとやることが多かったですね。厳しい指導はもちろんありました。些細なことだけど、自分は声が小さい。太田さんは周回練習の数のカウントの声が気になったみたいで『しっかり声を出しなさい』って怒られたりしましたね。でもそのくらいでしたね。

周りの男子選手に後から『自分たちの時はもっと厳しかったぞ』って言われました。太田さんにとっての初めての女子の弟子だったから、程よく優しくしてもらったのかもしれないですね」



デビュー戦は2015年7月、松戸。いきなりガールズグランプリ出場レーサーの山原さくらと対戦するキツいメンバー構成。逃げることもできない、まくることもできないで4着。

予選2走目も存在感を出すことができず、決勝進出を逃した。しかし、最終日の一般戦では増茂るるこの仕掛けに乗って差し脚を繰り出して、初白星を挙げた。


2場所目の豊橋で初の決勝進出を果たすと、4場所目の立川から8場所連続で決勝進出。優勝こそ無かったが、きっちり車券に貢献する安定感はアピールした。


2年目の3月京王閣で初優勝。7月にはガールズケイリンフェスティバル(川崎)にも初参加。2日目には1着もゲットと成績は良かったが、レース内容は自力選手の後ろに付けて差しに構えるレースが多かった。


「デビューしてからしばらくは『勝ちたい欲』が強すぎましたね。(尾崎)睦さんや(児玉)碧衣ちゃんが1着を取って優勝もしていたし、焦りもあったのかもしれないですね。先行して力を付けるよりも、目先の勝利や賞金を優先させていましたね。

しばらくそんなレースが続いた時、太田さんからガツンと言われて気が付いた。結局そういうレースを続けていくと、すぐに勝てなくなりました。自分でもこのままじゃダメだと思って先行する回数も増えていったと思います」


尾崎睦、東口純(2021年3月引退)、細田


自分の気持ちの弱さに気が付くとレース内容も変わり、積極的な組み立てが増えていく。そうなると踏める距離も長くなり、自然と成績が良くなっていった。

デビュー2年目に優勝3回、以降もコンスタントに優勝を積み重ねていき、ガールズケイリン上位に定着した。


しかしガールズケイリンフェスティバルや、競輪祭開催中に行われていたガールズグランプリトライアルレースでは良い結果を残すことができなかった。


「ビッグレースの雰囲気が苦手なんですよね。検車場も控室もピリピリしていて、ダメなんです。レース前は組み立ても考えるけど、自分よりみんな強いし、どうやっても勝てないなって思ってしまう。ビッグレースに行くと基本の自力の脚力で劣っていた。肉体的にも精神的にも戦う前から負けていましたね」


ビッグレースに参加すると、フィジカル、メンタルともに大きなダメージを負う。

「7月のガールズケイリンフェスティバルが後期の一発目の開催になることがあって、7着、7着、6着とか7着、6着、6着を取ると、競走得点が48点くらいしかない。賞金もすごく少なかったし、悲しい気持ちになるんです」



競輪から離れる時間を作り、練習したくなるまで思い切って休む。

気分転換は愛するペットと大好きなゲームをすることだ。



「ビッグレースが終わったあとは、思い切って休みます。家から出ることが好きじゃないので、家で飼っている犬たちといっぱい遊んでリフレッシュします。あとは大好きなゲームをずっとやっている。好きなことに満たされている時間を過ごすことで、もう一回頑張ろうって気持ちが入る。その繰り返しでここ何年かはやっています」




昨年2024年は1月の宇都宮での優勝からスタート。以降2月京都向日町、3月岐阜、4月福井とコンスタントに優勝を積み重ね、苦手にしていたGⅠ・オールガールズクラシック(久留米)でも予選突破。

夏場は優勝こそなかったが9月函館、10月松戸で優勝。11月のGⅠ・競輪祭女子王座戦でも再度予選を突破、年の終わりの久留米でも優勝と1年を通して高い水準をキープした。この要因は練習方法を確立したことだった。


「自分に合っている練習を見つけたことが大きいですね。以前は師匠と一緒に大宮競輪場で練習をしていたのですけど、自宅から大宮競輪場が遠くて、移動で疲れてしまった。師匠に相談をして、自宅にワットバイク、パワーマックス、ローラーと練習器具を全部そろえてトレーニングをするようにした。

そうすると、今まで移動にかけていた時間で練習ができる。ガールズケイリンの選手も室内だけで練習している人も多いので、いろいろ聞きました。自分に合う練習を見つけてからは成績も安定してきた。ここ最近の成績が良くなってきたのは練習方法を変えたからだと思います」


今年に入ってからも快進撃は続いている。

1月いわき平、2月大垣と準優勝。3月小松島で今年の初優勝を決めると、4月のオールガールズクラシック(岐阜)では予選2着、準決勝2着でGⅠ初の決勝進出。この夏の活躍も期待したい。


「岐阜のオールガールズクラシックは考えて走ることができました。準決勝は太田りゆちゃんが強いと思ったけど、後ろにいてもちぎれてしまう。それなら前々から勝負したほうがいいと思えた。体も反応したし、決勝に乗れてよかった。自分への声援も聞こえたし、すごく力になりました」


デビュー11年目に入り、積み重ねた1着回数も増えてきた。トップクラスの証しである通算勝ち星300勝も視野に入ってきた。


ガールズケイリンの歴史の中で300勝を突破した選手は16人しかいない。

「意識していなかったけど、そんなに勝てていたんですね。108期にはすごいスピードで1着を取っている2人(児玉碧衣590勝、尾崎睦472勝。2025年5月23日現在)がいるから(笑)。若い頃は2人に刺激をもらったこともあったけど、最近は応援する感覚になってきました。昨年は睦さんが久しぶりにガールズグランプリへ出場できたこともうれしかった」


児玉碧衣と


300勝達成がカウントダウンに入っている中、もうひとつ細田愛未が誇れることは選手生活で失格、落車が無いことだ。


「もちろんレースで転びそうになったことはあるんです。これは師匠の太田さんのおかげですね。選手になってすぐの頃、『落車しそうになっても絶対に踏むことをやめるな』って教えてもらった。そのおかげですね。以前、自分の後輪に別の選手がバランスを崩してお尻から乗ってしまったことがあったけど、自分は踏むことをやめなかったおかげで転ばずに済んだ。落車は無いほうがいいですからね」


先日のGⅠ・オールガールズクラシックで決勝進出したことで、ビッグレースでの活躍も期待がかかるが、マイペースを貫くつもりだ。


「若い頃は負けず嫌いだったけど、最近は悔しいって思うことは滅多にないですね。前は自分よりも細身の選手にレースで負けたりすると、あれって思うこともあった。でもガールズケイリンは負けることも多い。負けたことでガクッとしてしまうと気持ちを上げるのが疲れる。考え方を『負けても次頑張ればいい』っていう思考に変えたら楽になりました。それから選手生活が楽になりました」


闘争心を前面に出すタイプではないが、内面に秘めた思いは熱いものがある。

6月のGⅠ・パールカップ(岸和田)は欠場防止策のため出場できないが、目の前のレースを一つずつしっかり走って、まずは300勝達成を目指していく。



細田愛未 Manami Hosoda



誕生日:1995年7月1日

身長:164.1cm

期別:108期

登録地:埼玉県


松本直 Suguru Matsumoto



誕生日:1979年5月1日

所属:デイリースポーツ(競輪記者歴14年)


同じカテゴリーの最新ニュース

    1. ホーム
    2. ニュース
    3. 特別企画