“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。

黒河内由実は長野県松本市生まれ。２０１３年に閉場したかりがね自転車競技場が近くにある街で育った。２歳下の妹と２人姉妹。両親は共に運動神経が良く、小さい頃からバレエ、バレーボール、水泳と活発に体を動かしていた。

小学生の頃は金管バンドにも取り組み、小学5年生の時に声をかけられたことで、中学生になると吹奏楽部に入部。金管楽器のチューバを担当。部活動に熱中した。

「私は小学生の時から体が大きかった。６年生の時、中学の吹奏楽部の顧問の先生から声を掛けられてうれしかった。顧問の先生のおかげで中学の３年間は部活動に打ち込めました。力持ちだったこともあり、楽器を運んだりすることも進んでやりました。この頃は将来も音楽に携わる仕事がしたいなという気持ちでした」

高校は長野清泉女学院高校へ進学。高校でも吹奏楽部を選択したが、中学時代ほどの熱は入らなかった。将来夢見ていた音楽関係の仕事への思いも見失っていた。

県内有数のお嬢様学校だった長野清泉女学院高校から就職の選択肢はなく、黒河内も進学の道を選択。看護科だったこともあり、救急救命士の専門学校の試験を受けて合格。高校卒業後の進路も決まっていた。

しかし高校３年生の夏、知人に誘われて参加した自転車イベントのことが忘れられなかった。

「高校の部活が終わった夏休みに友だちから弥彦競輪場でやっているCLUB SPIRITSの練習会に誘われました。小さい頃から自転車に触れる機会もあり、初めてバンクを走った時に楽しいなと思いました。その時の気持ちが残っている中で専門学校の受験をして合格もして進路も決まったけど、ガールズケイリンをやってみたいって気持ちが芽生えてきた。

多分、高校３年間の吹奏楽が不完全燃焼だったからだと思う。なにか新しいことに挑戦したいって気持ちが強くなり、高校卒業後は弥彦へ引っ越してCLUB SPIRITSにお世話になりながら選手を目指すことになりました」

CLUB SPIRITSは弥彦競輪が主催するプロを目指すクラブ。過去にもガールズケイリン１期生の加瀬加奈子、中川諒子、藤原亜衣里、田中麻衣美（引退）、２期生の菅田賀子（引退）、３期生の上原七衣（引退）がガールズケイリンのプロ選手となっている。

高校卒業後の春から親元を離れて弥彦に移住。１１０期の試験合格を目指して日々練習に打ち込んだ。練習の合間には弥彦競輪のテレビ中継のバイトもしていたそうだ。

「練習はコーチの小川隆（４５期・引退）さんや、弥彦の先輩たちが見てくれました。練習は厳しかったけど、競輪学校（現・日本競輪選手養成所）の合格に向けて一生懸命やっていました。

練習の合間に弥彦競輪の中継スタッフのバイトをさせてもらいました。弥彦の敢闘門のところで発走前の選手を映すカメラを担当したんです。一番最初の時は顔を映さず足だけを映してしまったけど、そのあとは無難にカメラマンをやっていましたよ」

CLUB SPIRITSは練習へ打ち込める環境がある。黒河内も一心不乱に練習へ打ち込み、自転車競技未経験ながらも、約半年の準備期間で競輪学校１１０期の試験を突破した。

「弥彦では本当にお世話になりました。練習環境は抜群でした。１０００メートル、ハロンは先輩たちに鍛えてもらいました。そのおかげで１回目の試験で合格することができた。自分の中で２回までは挑戦しようと思っていたけど、１回で受かってよかった」と振り返る。

左から同期の藤巻絵里佳、黒河内、藤谷はるな（引退）

２０１５年の春、１１０期として伊豆修善寺にある競輪学校に入学。

同期は２２人。１着は２回、在校成績は１８位といい成績とはいかなかったが、最高の仲間たちと日々鍛錬を積み重ねて１年間を乗り切った。

「１１０期の仲間は本当に最高でした。あのメンバーとならもう一度競輪学校に行ってもいいかなって思うくらい仲間たちに恵まれました。自転車経験もないし、在校成績が下位だったことも気にしていなかった。競輪も弥彦でお世話になるまで見たことがなかったし、競走訓練での走り方も分からなかった。だから教官の教え通り発走機をいち早く出て前からレースをすることだけを心がけた。（※競走訓練７３走中、Ｓ回数は５２回。２位は林真奈美の２９回）Ｓ回数に関しては１位が取れました」

後編は、6月27日(金)に公開予定です。

お楽しみに！

黒河内由実　Yumi Kurokochi

誕生日：1995年6月22日

身長：166.2cm

期別：110期

登録地：長野県

松本直　Suguru Matsumoto

誕生日：1979年5月1日

所属：デイリースポーツ（競輪記者歴14年）