加瀬加奈子 ガールズケイリン選手たちの“道しるべ”
2021.03.06
2012年7月1日に平塚競輪場で開幕したガールズケイリン。
加瀬は1期生のスター選手だ。
トライアスロン出身。
得意だった自転車を生かすため、競輪選手を目指した。
日本競輪学校(現・日本競輪選手養成所)在校成績2位だったが、卒業記念レースでは優勝。
デビュー戦の平塚は優勝こそできなかったが、3日間とも先行勝負。
風を切ってガールズケイリンの開幕戦を盛り上げた。
平塚以降は31走して1着は24回、優勝6回と圧倒的な戦歴を残した。
1着のほとんどが先行だったことも加瀬らしい。
年末の第1回のガールズグランプリ(京王閣)も先行で挑んだ。
結果は加瀬の番手を回った小林莉子が抜け出して優勝したが、レースを作ったのは加瀬だった。
デビュー2年目の2013年6月前橋でコレクション初優勝達成。
しかし前橋以降はビッグレースで善戦するが勝ちきれず、普通開催で優勝と物足りない成績が続いてしまった。
しかし加瀬の信念は変わらない。
デビュー前からいい続けている「男道先行」を貫いた。
逃げて勝つ。
シンプルだが難しい。
この戦法にこだわり続けた。
次から次へと出てくる新人選手相手にがっちり組み合って力勝負を続けた。
石井寛子や梶田舞、山原さくらの2期。
小林優香、石井貴子、奥井迪、高木真備の3期、児玉碧衣に尾崎睦の4期。
各期のエースとの踏み合いは見応えがあった。
加瀬と踏み合った選手は強くなっていく。
「最近だと岩崎(ゆみこ)、増田(夕華)、下条(未悠)、橋本(佳耶)かな。しっかり先行していくとレースを覚えるし、必ず強くなれる。最初は逃げても簡単にまくられて苦しいかもしれないけど、諦めないで頑張ってほしい」とエールを送る。
加瀬といえばけがの多い選手だ。
一番の大けがは2015年12月の四日市。
6人が落車してしまったレース。
加瀬も落車に乗り上げてしまい、脳挫傷の大けがを負ってしまった。
翌2016年4月にはガールズケイリンではなく自転車競技大会で落車。
今度はくも膜下出血。
半年の間に2回も落車。
それも頭から落ちてしまっただけに、そのときは引退もよぎったそうだ。
「骨折は治るけど、頭はね。精神的にキツかった。頭を打つ落車が続いたときには、さすがにハローワークにいきましたよ。
これは引退して新しい仕事をしないといけないかなって。
でも現実は厳しかった。30代中盤の女性が正社員で働ける仕事は限られていた。給料もものすごく安かった。
やっぱりガールズケイリンで食っていかなきゃいけないなって思った」
「ガールズケイリンで頑張っていく」。
強い気持ちで復帰戦に臨んだ。
地元弥彦でのレースだった。
初日こそ逃げて差されて2着だったが、2日目にまくりで1着。
最終日の決勝は前受けから突っ張り先行。
石井貴子、長澤彩を相手に逃げ切り優勝。
けがをしても立ち直る不屈の精神力で乗り越えた。
今年2月の取手で落車。
左鎖骨を骨折したが、くよくよした様子はない。
「すぐに手術をしてもらえたし、大丈夫。右の鎖骨も2回折っているし、これでバランスがとれるでしょう。
諸橋(愛)さんにも『あんまり長く休むとレース勘が悪くなるし、走れるようになったら走ったほうがいいよ』ってアドバイスももらったので」
生死をさまよう大けがをした加瀬にとって骨折は平凡なことのようだ。
(左)同期の中村由香里
加瀬といえばママさんレーサーの一面ももっている。
2018年7月に妊娠。2019年2月に長女米(まい)ちゃんを出産。
同年7月の奈良で復帰した。
産休を挟んで戦列へ復帰したママさんレーサーとして初の優勝も達成(2019年11月向日町)した。
「落車より出産のほうが痛かった(笑)。妊娠中は新潟支部のサポートも大きかった。
みんな練習に付き合ってくれたし、気にかけてくれた。
そのおかげで復帰も早くできた。
支部のみんなに恩返しをしたいし、もう少し頑張ります。
旦那のお母さんは専業主婦になってもいいのではと声をかけてくれるけど、もう少しガールズケイリンを頑張りたい」。
(右)同期で新潟支部所属の田中麻衣美
33人でデビューしたガールズケイリン1期生。
3月5日現在、21人まで減ってしまったが加瀬を筆頭にまだまだ踏ん張っている。
加瀬と同じ1期生の門脇真由美がもっているガールズケイリン最高齢優勝記録(40歳8カ月12日・2013年6月2日和歌山)を塗り替えてもらいたい。
加瀬加奈子はガールズケイリン選手たちの“道しるべ”なのだから。
加瀬加奈子 Kanako Kase
誕生日:1980年5月31日
期別:102期
身長:164cm
ホームバンク:弥彦競輪場
松本直 Suguru Matsumoto
誕生日:1979年5月1日
所属:デイリースポーツ(競輪記者歴13年)
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