
“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。

■前編は
コチラ
當銘沙恵美は2020年5月の小倉でプロデビュー。この年から始まった同期同士のレース、競輪ルーキーシリーズで走り始めた。小倉では3、5、6着と車券に貢献する走りも披露した。
「養成所の訓練とは全く違った。コロナ禍でレースは無観客だったけれど、自分が走る前になるとテレビモニターにオッズが流れる。自分から車券が売れているのが見えるし緊張がすごかったです」
本格デビューは7月の和歌山。先輩との初対戦でいきなり落車してしまうが、大事には至らず。7月2開催目の京都向日町2日目には初手からマークした
児玉碧衣に離れながらも追走を決めて2着と車券に絡んだ。
11月の弥彦では最終日の一般戦で1着。デビュー初勝利をつかみとった。
しかしこの1着は良い思い出がないと振り返る。
「一般戦で1着が取れたのはうれしかったんですけど、そのあとの1着インタビューがグダグダになってしまった。緊張とイヤホンの音声がうまく聞こえなくてカミカミのインタビューになってしまった。地元に帰ってからもイジられてしまって。今でも軽いトラウマになっています」

120期の太田瑛美と
いろいろあったデビュー年。苦しい戦いが続いたと振り返る。
「先輩たちが強かったし、すごくうまく走るなと思いました。これは本当に勝つのが難しいなと思いました」
2年目に向けて取り組んだことはレースで自力を出すことだった。
「デビューしてすぐの頃は姉の直美みたいな戦い方をしていたけれど、良い位置はみんな狙ってくる。私は姉みたいに『この位置、絶対に譲らない』みたいな気持ちがそこまで強くない。並ばれたら怖いって感じることもあった。どうしても思い通りに走れずレーススタイルに迷っている時期がありました。
そんなタイミングで豊橋の練習仲間のみなさんからアドバイスをもらったんです。『せっかく練習で自力を出しているんだし、レースで力を出し切らないともったいないよ』って。自分でもダメでも自力で動いたほうが後悔しないなと思ってレーススタイルをしっかり動く方向に決めました」

レースの流れに逆らわず、自力を出すレーススタイルを少しずつ確立していくと、成績も安定してくる。
2022年の後半はほとんどの開催で決勝進出を果たし、2023年2月の高知で杉浦菜留マークから差し脚を発揮してデビュー初優勝を手にした。
「高知は強いメンバーが揃っていた。同期の
下条未悠、杉浦菜留もいた。決勝は優勝を狙っていたわけではなく、展開で菜留ちゃんの後ろにマークできた。あとは菜留ちゃんの仕掛けに離れず付いていって、同着かなと思ったけれど、しっかり踏み込んだら1着まで届くことができました」
初優勝以降も成績は安定。2024年は11月熊本、12月久留米の2場所以外は全て決勝進出と一皮むけた戦歴を残した。11月には大垣、岐阜で連続優勝とキャリアハイの成績で走り抜けた。
「優勝を2回できたのは良かったです。熊本は
吉川美穂さん、
尾方真生ちゃんがいて完全に力負けでした。ねじ伏せられた感じでした。自信を無くした状態で大垣に行ったので不安もあったけれど、力を出し切ったら優勝できました。次の岐阜もそんな感じで戦ったら優勝できた。
大垣も岐阜もGⅠ出場選手のいない開催だったので、恵まれた面はあったけれど、勝てて良かった。高知の優勝のあと、なかなか優勝することができなかったのに、続けて優勝することができてうれしかったです」

同期の近澤諒香と
2回の優勝と安定した戦いの結果、今年4月に岐阜で開催されるGⅠ・オールガールズクラシックへの出場権を手にした。
「昨年は姉と『GⅠに一緒に出られたらいいね』って話をしていて、私も出られたらいいなって思っていました。大垣を優勝した時に、岐阜も優勝すればGⅠに出られると思って気合は入りましたね。姉と今まで一緒の開催になったことがないので、GⅠのオールガールズクラシックは楽しみですね」

GⅠ・オールガールズクラシックは、初日の予選が選考順位による自動番組。2日目以降は初日の着位による自動番組。めぐり合わせ次第では姉妹で同じレースを走ることもありそうだ。過去には石井姉妹(
寛子、
貴子)が2017年8月いわき平で、太田姉妹(
美穂、瑛美)が2024年4月久留米で一緒のレースを走っている。
「姉と一緒に走ることは想像もできないですよ。もし一緒に走るとなったらどんな気持ちになるんですかね。自分でも分からない」
ガールズケイリン選手へと導いてくれた姉への感謝と尊敬の気持ちはとても強い。
「姉のおかげでガールズケイリンを知り、選手になれて良かった。自分の努力次第で結果に結び付くやりがいのある職業です。3回目の挑戦で養成所に受かったけれど、本当に魅力的な仕事です。
姉には感謝と尊敬の気持ちでいっぱいです。一番近くで見ていて、ものすごい量の練習をストイックにやっている。こうと決めたら気持ちが強い。自分もそのおかげで強くなれていると思う。追い越せる自信はないけれど、付いていきたい。姉はGⅠの常連選手になっているし、自分もたくさんGⅠに出場できる選手になりたいです」

姉の直美と
初めての大舞台、當銘沙恵美の戦い方は決めている。力を出し切るレース。自力を出すことだ。
「強い選手ばかりでゾッとするけれど、自力を出したほうが納得できる。自力を出さないで後悔することがないように頑張る」と気合を入れる。
夢はガールズケイリンを教えてくれた姉・直美と一緒にGⅠ決勝に出場すること。
GⅠ決勝の舞台を目指す挑戦はこれから始まる!
當銘沙恵美 Saemi Tome

誕生日:1998年9月18日
身長:160.0cm
期別:118期
登録地:愛知県
松本直 Suguru Matsumoto


誕生日:1979年5月1日
所属:デイリースポーツ(競輪記者歴13年)