
“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。

■前編は
コチラ
中野咲のデビュー戦は2016年7月松戸競輪場。
先輩レーサーを相手に5着、6着、6着と苦戦。車券に貢献することはできなかった。
「ものすごく緊張したことを覚えています。何もできずに終わってしまいました。学生時代のテニスの試合より緊張しました。大勢のお客さんがいて、車券の対象になっていると自分にプレッシャーをかけていたのかもしれないけれど、本当に緊張しました」

緊張で何もできなかった松戸からレースキャリアを積んでいくことで少しずつレースにも慣れていき、同年8月の小倉で初の決勝進出。同年9月の松山では最終日の一般戦で初白星もゲットした。
「高校時代にアルバイトをしたこともないので、自分で稼いだ賞金はうれしかったですね。デビューしてすぐに買ったのはロードバイク。100万円くらいしたけど、練習して強くなりたかったから思い切って買いました。デビューした時は危機感を持って練習をしていました。初決勝や初勝利はもちろん覚えています。自分のやりたいレースをできたわけではなく、ただ流れにうまく乗れただけって感じだった。勝ってもうれしいという感じではなかった。それでも初勝利の松山では同県の先輩もすごく喜んでくれたし、後泊で食事に行った時、偶然居合わせた競輪ファンの人から花束をもらった。周りの人におめでとうって言ってもらえたことはうれしかったし、思い出に残っています」

110期の同期・黒河内由実と
中野にとって初決勝や初勝利はあくまで通過点。競輪学校(現・日本競輪選手養成所)を卒業した時に立てた目標を達成するために葛藤していたのだ。
「あの頃の競輪学校の生徒はみんな『レースでは先行。デビューしたらガールズグランプリ優勝』と言われてきた。私もその中で育ってきたから、デビューしてから先行もできていなかったし、納得がいく走りができていなかった。それが引っかかっていて、あんまりうれしくなかったのかもしれないですね」

110期の同期と。写真左から大谷杏奈、中野、宮地寧々、鈴木彩夏
自分の理想とする走りを追い求めて奮闘したデビュー2年目も苦しいレースが続いた。たまに決勝に乗れるが競走得点はなかなか上がらない日々。12月の岐阜では落車。復帰は翌年4月の松阪まで時間が掛かってしまった。
「岐阜の落車で中指をはくり骨折。針金を入れて固定する手術を勧められたけど、固定している間は練習ができなくなる。練習ができなくなるのは嫌だったので、ほねつぎの治療を毎日受けて何とか練習を休まないでやっていました。2017年12月には同期2人が代謝で引退した。2人とも在校成績は自分より上だったし、1人は一般戦で1着も取っていたのに、代謝になってしまった。自分も焦りました。競輪学校にいる時は同期で一番目にクビになるのは自分だと思っていたので、この頃は必死でした」

110期の同期と。写真上段左から板根茜弥、中野、蓑田真璃、下段左から林真奈美、土屋珠里
デビュー3年目は大きな転機を迎える。
2018年11月の福井で初優勝を達成。小倉で開催されたガールズグランプリトライアル出場組が不在とはいえ、価値ある勝利を自分の力でつかみとった。
「ちょうどこの頃、
長澤彩さんに名古屋での練習に誘われた。もともと豊橋まで練習のために時間を掛けて通っていたこともあったので、移動時間の短縮にもなるし、違う環境での練習にも興味がありました。豊橋と名古屋で雰囲気が違うので不安もあったけど、強くなりたいと思ったので、名古屋に飛び込みました。名古屋の練習は朝早い時間からスケジュールをきっちり管理してやる。内容も濃かったので、自分を高めるにはここだと思いました。練習も自分に合っていると思ったし、勇気を持って名古屋に飛び込んでよかった。最初は練習でちぎれるし、大変だった。それでもいろいろ教えてくれてなんとか練習に付いて行けるようになった。その結果、11月の福井で初優勝できたと思います」

選手を目指すきっかけとなった長澤彩に誘われたことで、飛躍のきっかけをつかむと一気に競走得点は上昇。11月福井で初優勝を決めると、翌2019年3月伊東まで9場所連続で決勝進出と好結果が出始めた。
2018年からは1年ごとに1着回数も増え、優勝も着実に増えていった。
2022年11月にはガールズグランプリトライアルに初出場。
2023年は29勝して優勝が7回、松戸のオールガールズクラシック、小倉の競輪祭女子王座戦に出場。
2024年は33勝して優勝6回。久留米のオールガールズクラシック、岸和田のパールカップ、小倉の競輪祭女子王座戦と全てのGⅠレースに出場。7月松戸のガールズケイリンフェスティバルでは決勝進出も果たした。

更なる高みを目指して今年はいろいろと挑戦をしている。
セッティングや乗車フォームの改善は今以上の成績を出すことと、競輪学校卒業時に立てた目標を達成するためだ。
「デビューした時には考えられない位置まで上がってこられたなとは思うけど、目標にはまだまだだなと感じている。最近特に思うのが心技体、この3つをバランスよく高めていかないといけないなと思います。目標達成へまだまだ道半ばなので、諦めずにやっていかないといけないと思います。いろいろやっていることがすぐ結果に結び付くとは思わない。時間は掛かるかもしれないけど、確実に良い方向へ向かっていると実感している。今年の成績はかなりきびしいですが焦らずやっていきたいと思います」

110期の同期と。左から林真奈美、中野、荒川ひかり、鈴木奈央
今年も残すところはあと2カ月。優勝という最高の結果へ自分の持っている力を全て出し切るだけだ。
「今は改善、改良を重ねている最中。練習の精度は上がっているし、あとはレースで発揮するだけ。最近は練習の感じはいいのに、レースで全て出し切れていない。練習ではできていることがレースでできていない。レースで100%を出し切れるように練習では120%出し切ることを意識してやっていきたい」

デビュー当時は成績低迷で崖っぷちに追い込まれていたが、成績が上昇しビッグレースの出場も果たしたが、現状は苦戦中。しかしこの時間は大きくジャンプするための力を蓄えている大事な準備期間だ。
「GⅠの舞台でもう一度結果を出すビジョンはある。今はどんな不利な展開になっても勝てる強さがほしい。最終目標は競輪学校の時と変わらずガールズグランプリに出場すること。優勝することを目指して頑張る。これが私のモチベーションです」
練習はウソを付かないことを証明する中野咲。
ストイックな練習のご褒美は大好きな阪神タイガースの試合を観戦すること。
オンオフの切り替えをしっかりして、反撃態勢を整えている。
110期は今年がデビュー10周年。11年目となる2026年はキャリアハイの成績を目指して大きなジャンプを決めてくれるはずだ。
中野咲 Saki Nakano

誕生日:1997年2月8日
身長:161.0cm
期別:110期
登録地:愛知県
松本直 Suguru Matsumoto


誕生日:1979年5月1日
所属:デイリースポーツ