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<後編>沖縄発の2年目・池原杏「私を見て選手になったと言ってもらえるように!」【松本直のガールズケイリンちょっとイイ話】

特別企画 2026.04.30



“ミスターガールズケイリン”の異名を持つデイリースポーツ・松本直記者しか知らない、ガールズ選手の秘話や“いい話”を紹介します。



■前編はコチラ



池原杏は128期の試験合格に向けて、沖縄の先輩レーサーたちに面倒をみてもらい練習を積んでいった。

比嘉真梨代(114期)はレースに行くと他のガールズケイリン選手たちから練習メニューを聞いてきて、池原の練習に取り入れた。


今では発走機を出ることを得意にしている池原だがアマチュア時代は苦手にしていた。養成所の500メートルタイムトライアル試験は発走機から出ての計測。発走機をうまく出ることが合格への近道と感じた比嘉の提案で徹底的に発走機から出て500メートルタイムトライアルを繰り返し練習した。

最初はタイムが伸びず悩んだこともあったが、比嘉から「大丈夫、大丈夫」と言われ続け、信じてやり続けた。

その成果は試験前の夏に出た。500メートルタイムトライアルでは38秒、200メートルのハロンでは12秒5と養成所合格の基準タイムに近づいたのだ。


「128期の試験前に練習の成果がタイムに出てきた時はうれしかった。タイムが出なくて悩んでいた時期はあったけど、真梨代さんはずっと声を掛けてくれた。自分は深く考えてしまうタイプで気持ちが落ち込んでしまうことも多かったけど、真梨代さんに近くでサポートしてもらえて頑張れた。考え過ぎない!ってことを一番教えてもらいました。128期の試験も1年前に経験しているからあまり緊張することなく臨めた。これも真梨代さんのアドバイスのおかげ。雰囲気に慣れていたからいつもの力を出すことができて、128期で合格することができました」



合格発表は師匠の仲松勝太(96期)、練習仲間の新垣慶晃(127期)と一緒にスターバックスコーヒーで確認をした。


「128期の合格発表は師匠の勝太さんが一緒に見たいって言ってくれたので、練習が終わったあと、スタバに行って勝太さんのパソコンで確認しました。同門の新垣慶晃さんは合格のレベルにあって落ちる感じはなかったし、自分の結果をドキドキしながら見ました。自分はタイムが試験前に上がったとはいえ、波のあるタイプなので不安はありました。沖縄県の選手は一番下に名前があるので、池原杏の文字を発見した時はスタバで大きな声を出してしまいました(笑)。同じタイミングで真梨代さんからも連絡が来ました。インフルエンザで体調を崩していたけど電話を掛けてきてくれてうれしかった。すぐ家に帰って親にも報告。遠回りになってしまったけど、養成所に入れてよかった」


126期は落ちてしまい遠回りになったが、それ以上に浪人期間で基礎の力を付ける大事な時間になったのは事実。この経験が日本競輪選手養成所でも役に立つこととなった。



日本競輪選手養成所での生活は、同期の仲間と楽しく乗り切った。


「練習は高校生の時が量をこなす部活だったので、養成所の練習をキツいなと感じることはなかった。それよりも沖縄では体験できない女子同士でもがけることが楽しかった。自転車競技者だけではなくいろんなスポーツから集まっていたので、情報交換で話をすることも楽しかった」と1年間の練習を振り返った。


ただ寮生活では戸惑った。沖縄県人には「ウチナータイム」と呼ばれる沖縄特有の独特な時間感覚がある。

沖縄のゆったりした時間の流れに慣れていた池原にとって、徹底的に管理された養成所の生活は大変だったと振り返る。


「縛りの多い時間割には苦労しました。自分は沖縄の中でもゆっくりしているほうなので。アマチュア時代も練習時間ギリギリに行って、真梨代さんに怒られたりすることもありました。養成所で絶対怒られるよって真梨代さんに言われてドキドキしていたのですが、同期の川原未紀ちゃん、土井柚姫ちゃんがそばにいてくれて助けてもらいました。2人は時間に厳しいタイプなので、引っ張ってもらって、先生に怒られることは少なかったです。ガールズケイリン選手はプロデビューしたら集合や発走など時間を意識しないといけない職業。2人が自分のゆったりした部分を正してくれたおかげで今も助かっています」


在所成績は競走訓練で2勝をマークしたものの16位に終わった。

それでもテーマを持って1年間の養成所生活を乗り切った。


池原と川原未紀、土井柚姫


「真梨代さんからは『養成所は点数も関係ないのだから出し切るレースをしなさい。その中で自分の適性を見つけられるように。自力を出さないとなにも分からないからね』と言われていました。真梨代さんの言葉が胸にあったからいろんな戦法で戦いました。カマシ、突っ張りといろんな自力で動いて訓練に取り組みました。ただ養成所で自力にこだわりすぎて、今自在に動く時に苦労していますけど」


養成所卒業後は地元沖縄に帰って練習。師匠の仲松勝太が率いる仲松道場のメンバーや比嘉真梨代、加藤舞(116期)と引き続き練習に汗を流した。


デビューは2025年5月の熊本。同期だけで走ったルーキーシリーズだったが、5着、4着、6着で車券に絡むことはできなかった。

デビュー2戦目の別府も5着、7着、6着。しかし3戦目の四日市では2着、6着、7着。初日に同期の岡田優歩のまくりにマークして2着で初の車券貢献。最終日も決勝を走ることができた。


7月からの先輩選手との対戦は小松島から。高校生の頃、ガールズケイリンを志すきっかけとなった加藤舞との対戦。池原は前を取るものの、打鐘が鳴っても誰も仕掛けてこない。後ろでレースをされてしまい、気が付いた時には対戦相手全員にまくられてしまい7着。苦しいスタートとなった。

8月の名古屋、11月の京王閣で決勝進出こそ決めたが、池原杏の名前をアピールすることはできなかった。


「デビューしてからは悩みましたね。レースの流れが養成所と全く違いました。先輩相手に自力を出せることもなかったし、自在の動き方も分からない。悩んで落ち込むことが多かったです」



しかしそんな状況でも助けてくれるのは沖縄の先輩レーサーたちだった。


「真梨代さんからは『これからいっぱいレースを走るんだよ。1本1本で悩むな』って声を掛けてもらいました。デビュー直後のレースでどうしてもひるんでしまう癖があった。その時は爲田学さん(69期)と競技場で併走の稽古を付けてもらって、恐怖心を無くす練習をしました。横の動きがうまい為田さんとの併走周回は怖かったけど、稽古を付けてもらったおかげで、レースでは怖さがなくなりました。舞さんからは『ガールズケイリンのレースで、どこを見ている?』って聞かれました。誰が勝った、強かったっていうところを見ていますって答えたら、『それは違うよ。どういう所で動いたか、勝った人はどこで動いたか、有利にレースを運ぶにはどこで動けばいいのか、1人1人の動きを見たほうがいいよ』ってアドバイスをもらいました。それまではただレースを見ているだけだったなと反省をしました。舞さんからレースの見方を教わってからは、自分のレース以外でも多くのレースを見るようになりました。今はほとんどの時間をガールズケイリンと向き合っています」



先輩たちのアドバイスをしっかり受け止めて、練習への取り組み方、レースでの動き方、開催終了後の復習と丁寧にひとつずつこなしていくことで少しずつだが、レースでの着順は良くなっていった。


「ここまでのレースで記憶に残っているのは昨年9月平塚の最終日一般戦と、今年3月西武園の最終日一般戦。両方とも前から他の人をアテにすることなく動けた。今年はこういうレースを増やしていきたい」


今年に入ると少しずつ成績は上向いている。7着を取ることも減ってきた。

目標はデビュー初白星を挙げることだ。


「今期はしっかり47点を取ること。まだまだ自分のやりたいことはいっぱいある。前受け飛び付きだけでなく、自力を出すレースもしたい。そのためにも今期はしっかり点数を取る。初勝利を挙げることは年内の目標。でも、初勝利は自分のやりたいレースをやって取りたい。1着を取りにいって勝ち切れる選手になりたいですね」


沖縄には今男子20人、女子4人の合計24人(2026年5月1日現在)が在籍している。沖縄には自転車競技場はあるが、競輪場はない。池原ら沖縄の選手は地元の声援を受けて走ることができない。


「地元バンクの開催はうらやましいと思います。同期が地元の競輪場を走るとすごい声援をもらっているのを横で聞いていて、いいなと思いますよ。でも逆に地元でもないのに、『池原』とか『杏ちゃん』とか声援をもらえるとうれしい。選手になれてよかったなと思えるのでこれからもよろしくお願いします」


同期の成海綾香、池原、土井柚姫


浪人生活を経験してから入ったガールズケイリンは池原杏にとって魅力的な職業だ。


「アマチュア時代、養成所に合格したあと少しだけアルバイトをしたことがあるから、今のガールズケイリンの賞金はすごいと思う。月に2回~3回、レースがあって毎回成績に応じて賞金がもらえる。夢のある仕事だと思います。ガールズケイリン選手はみんなきれいで華やか。自分も先輩の姿に憧れて選手を目指した。今の自分の目標は後輩から憧れられる選手になること。沖縄からガールズケイリン選手がもっと増えてくれれば楽しいと思う。『池原杏を見て選手になりました』って言ってもらえるようになりたい。レースでカッコいいなと思ったり、見た目で憧れてもらってもいいと思う。あとは、自分みたいに高校時代に成績を残せなくても競輪選手になれたことを証明したい。そのためにもっと活躍したいと思っています」


自分の成績を少しずつ上げていき、池原杏を見て選手を目指したと言ってもらうことが目標だ。

うちなー魂を全面に押し出して、ガールズケイリンで存在感を発揮する池原杏の挑戦は始まったばかりだ。



池原杏 An Ikehara



誕生日:2004年10月15日

身長:161.3cm

期別:128期

登録地:沖縄県


松本直 Suguru Matsumoto



誕生日:1979年5月1日

所属:デイリースポーツ


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